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思い出の、砂 集め

 母は、飛行機に乗ったことがなかった。
 数年前、認知症も見えかくれしてきたため、今のうちに、思い立ったが大安吉日と、誕生日を記念して、沖縄に連れて行った。
 一生に一度は飛行機に乗せたい、との、亡き父の心残りもある。
 北海道に行きたたかったが、誕生日の2月を考えると、やはり、沖縄となった。
 奮発して、3泊4日、すべてタクシーをチャーターして、名所と言われる所は、すべて観てまわった。

 後日、撮ってきたビデオを見るたびに、
「浜辺は、美しかった」
「真っ白な砂を、取ってくれば良かった」

と、砂のことばかり言う。
 宿泊したホテルには、一面に広がるプライベート・ビーチがあり、部屋から直接行けた。
 初めての飛行機よりも、いろいろ回った著名な観光地よりも、おいしかった沖縄料理よりも、何よりも白い砂浜の方が、印象的だったようである。

 それ以来、出かけた海岸の砂を、ひとにぎり集めることにした。

 いつもの九十九里浜に、行ってきた。
 砂集めは、その日に、数か所の海岸に行っても、1番気に入った1か所しか、集めないことに決めている。
 思い出のため1か所に絞っても、おそらく記憶していないと、知っての上だ。
 だから、いつもの九十九里浜でも、標本にない場所が、まだ数か所、残っている。

 途中のたんぼでは、稲刈りの真っ最中である。
 途中の店先には、"新米あります"の表示が、あちこちにある。
 さすが、早場米の産地である。
 海の見える大好きな九十九里浜だが、夏休みの混雑を嫌って避けていたため、、久しぶりの訪問である。

 浜辺の出店で、早めの昼食をとった。
 8月末が金曜日だったため、暦の関係上、今日が夏休みの最後とのこと。
 しかし、気温が低いためなのか、宿題に追われてるのか、閑散としている。
 一部の海の家では、解体も、はじまっている。

 ここの奥さんと、おぼしき、中年の女性が、話しかけてくる。
「今日は、いい天気ですね」
「ここの浜辺は、きれいだわね」
「どちらから、来られたの」
「このお茶は、おいしいね」
「おばあちゃんは、いくつに、なられたの」
「孫は、県庁に勤めているのよ」
「お孫さんは、何人おられるの」
「去年、結婚したのよ」
 そうなんだ、という顔をして、離れていく。
 これも、ちょっと興奮した時に見せる、いつもの会話パターンである。

 食事は気に入ったようなので、今日の砂は、ここに決めた。
 水辺の近くの、気に入った場所から、喜々として、ケースに入れている。
 まるで、子供のようだ。

 今まで集めた砂は、海岸以外もあるので、ずいぶんたまった。
 テレビの隣りの棚に飾ってあるが、見ようとしたことはない。
 いずれは来るであろう、その時、とわの敷地に、まいてあげるつもりである。
 
 
 

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