指示は忠実に遂行する
いつものように、朝がやって来た。
いつものように、朝食の準備に入る。
だが、いつもとは違う格好、四つん這いになって、居間に出てきた。
それからは、いつものように、前掛けをして、食事を待っている。
料理を作っている最中に、トイレに行く。
やはり、這っていって、トイレの前で立ち上がってから入る。
立ったままトイレから出てくるが、また四つん這いになって、こちらに戻ってくる。
食事が、始まる。
"老人会"に行こうという素振りは、見せない。
食事も、ゆっくり食べている。
注意しなくても、目一杯のご飯を、口に詰め込むこともなく、こぼれてもいない。
久しぶりの、穏やかな食事の時間が過ぎてゆく。
食事が終えると寝てしまうので、食事中に、意を決して告げた。
「明日、病院に行くよ」
「何で?」
「足の骨が折れてないか、見てもらおう」
「治ったよ」
「4日も経っても痛いのは、骨が折れたのだと思う」
「痛くないよ」
「這ってるじゃない」
「でも、痛くない」
「じっとしていると痛くないのは、知っているけれど」
「立っても、痛くないよ」
「立つと、痛いんじゃないの」
「痛くない」
病院が、大嫌いである。
どうしても病院には、行きたくないのだ。
"行く、行かない"が、少しの間、続いた。
でも、何となく、変なのである。
病院に行きたくないから、
「痛くない」
と言っているのでも、ないようだ。
「じゃ、何で、這ってるの?」
「這って歩けって、いったじゃない」
確かに、数日前に言った心当たりがある。
骨にヒビでも入ったのではないかと思い、痛かったら這って歩くように、間違いなく言った。
「歩くと痛いといっていたけど、治ったの」
「いまは、痛くない」
「歩いたみたら」
「痛くない」
「歩き方は変だよ、痛くないの」
「痛くないけど、しばらく歩いてないから、歩きづらい」
何のことはない。
「這って歩けば」
と言われたことを、忠実に守っていただけなのだ。
脚を、見てみる。
色の変化はなさそうである。
ただ、左脚に比べると、少し固くなっている様な気はする。
ころんだ日は、痛くて歩けないため、大好きな"老人会"に行かないと、自らの判断で行かなかった。
その時は、間違いなく、痛かったのである。
テストをすることにした。
「今日は、日曜日だよ」
「天気が、いいねー」
「本当に、いい天気だ」
「外は、気持ちいいだろうねー」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「ドライブに、行きたいの」
「行きたい」
「本当に、歩けるの」
「歩ける」
うれしそうな顔に、かわっている。
駐車場まで、歩いている。
歩き方は、少しぎこちないが、痛そうな素振りは、微塵もない。
問題は、"ドライブの日"の、いつもの出発時間が、ずいぶん前に過ぎていることだ。
「どこに行く?」
「どこでも、いい」
「海?、山?」
「海」
決まった。
手短な、いつもの九十九里浜に、草花が咲き乱れる"太平洋"を求めることにした。
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