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何かが変わった(〆)

 
 最近は、大きく改善されたことがある。
 自主的に、トイレに行くようになったのである。
 ここでは、成功するか、失敗するかを、問うてはいない。
 紙おむつの使用量が、減ったのでもない。
 繰り返される真夜中の"トイレ・ハイキング"のように、意味もなく徘徊することも、別である。
 とにかく、行動を起こすようになったのである。
 原因は、想像できる。
 
 認知症は、正常に見える時もあれば、理解できない時もあり、まだらな状態で、徐々に進行すると、医師からは聞いている。
 それが、ほんの些細なことではあるが、明らかに改善されたように感じる。
 奇跡というほどのものではないが、"想定外"である。

 10か月前、本格介護をスタートさせた。
 それを聞きつけた"ある人"が、想像を超えたサポートをしてくれたのである。
 忙しいであろう仕事の合間をぬって、連絡してくる。
 依頼したわけでもないのに、次から次へとアドバイスをしてくれる。
 精神的に多少ではあるが、追い込まれていた時期である。
 凡人の浅はかさ、はじめはしばらく、なぜしてくれるのか理解できなかった。
 家族でもなければ、兄弟でもないし、親戚でもない。
 むしろ、それら以上に心遣いをしてくれるのである。
 単に、仕事での付き合いがあっただけで、すでに受発注の関係にはなかった人である。

 一気に、精神的に立ち直ることができた。
 アドバイスを参考に、次々に手も打てた。
 それに引きずられるように、次から次へと、親切で素敵な人たちと出会う。
 書き切れないことも、数限りなく起きた。
 紙おむつを買う店では、2度目の買い物の際、
「この領収書は、取っておいてください」
「なぜ?」
「金額が大きくなれば、申告に使えますから」
と、アドバイスをしてくれる店員とも出会った。
 それ以前から紙おむつは使っていたのに、どの店からも、そのようなことを言われたことはなかった。

 歳をとっても、女性の下着コーナーは馴染めない。
 いつもは、田舎で買ってくる。
 ある時、予備がなくなり、止むなく、求めに出かけた。
 ウロウロしていると、近くにいた、明らかにパートとおぼしき"オバチャン店員"が割り込んできた。
 こちらの希望を聞いた後の行動は、素早かった。
「お年寄りには、ブランド物はいらないの」
「どうせ、汚れるから」
「これは、肌触りがいいから」
 ひとり言をいいながら、瞬く間に、品ぞろえが終わる。
 それも、安めの商品を選んでいる。
 よっぽど金が無いように見えたのかと、心の中で苦笑する。
「私も、母を8年間、大変でした。がんばってください」
 最後に、付け加えた。

 ある"飲み会"で、そのことを話した。
 翌週、その仲間の一人から、電話があった。
 同じ職場ではなかったが、一緒の会社にいて、今は"人妻"である。
 買い物に、付き合うという。
 遠慮をしていると、
「どうせ、ヒマだから」
と、引き下がるつもりはなさそうだ。
 好意を受けた。
 それ以来、定例の"買い物会"になり、年のずいぶん離れた"妹"もできた。
 小さなことかもしれないが、百万の援軍があったように、心が和む。

 2か月前、興奮した趣きで、"ある人"がやってきた。
「認知症も、諦めねば、回復することもある」
と、資料のコピーを持って来た。
 アドバイスを信じ、トイレにチャレンジすることにした。
 朝起きたらすぐに、朝食が終わった時も、お茶になった頃にも、等など、定期的にトイレに行くように、声をかけることにした。
 "ドライブの日"には、トイレの休憩時間の間隔を、極端に短くした。
 デイサービス、ショートステイの職員にも、"声掛け"を頼んだ。
 
 そして、一時的かも知れないが、間違いない"改善"が起きた。
 みずから、トイレにチャレンジするようになったのである。
 協力してくれている周りのみんなに、感謝の言葉がわいてくる。
 言えなかった「ありがとう」と。
 
 
 

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