ちっちゃな事件
メンタルケアの病院に向かう。
予約時刻の少し前に、受け付けをする。
いつもの席で順番を待つ。
"予約"なのに、20分ほど過ぎても呼ばれない。
前回も、30分ほど待たされた。
診察室のドアが開き、看護婦の一人が出てきて、通りすがりに、
「お待たせしてすみません。次ですから」
と、声をかけて通り過ぎる。
やはり今回も、30分待たされた。
いつもの変わらぬ問診がはじまる。
特に変化もないため、10分ほどで診察は終わる。
いままで、静かにうなだれていた母は、一瞬で元気を取り戻す。
「ありがとうございました」
「さようなら」
元々、病院嫌いではあるが、この病院は特に嫌いなようである。
さっさと、診療室を出てしまう。
そして、ちょっとした"事件"が起きる。
出るとすぐ見知らぬ人に、握手をはじめたのである。
「ありがとうございました」
と声をかけながら。
握手をされた方は、"ビックリ"であろう。
見知らぬ"おバアさん"から、突然、握手される。
この病院は認知症を扱っていると知っていても、付添いの人たちである。
自分に"災害"が及ぶとは、思ってもいまい。
うれしそうなのは本人だけで、相手は戸惑っている。
診療の支払いをする間も、相変わらず喜々としている。
薬を受け取りに、隣にある薬局に向かう。
待っている間に、それらしい理由が分かった。
どうも、入院をさせられると思っていたようだ。
大丈夫だと思った瞬間、憂鬱な気分から、一気に快活な気分に変わったのだ。
それ以降、用事を済ますために知り合いの人たちと会うが、会う人、会う人、すべての人に握手を求める。
男性と会えば、
「久しぶりだねー」
「奥さん、お元気?」
と、握手を求める。
女性であれば、
「久しぶりだねー」
「旦那さん、お元気?」
で握手する。
相手は予想もしないできごとに、唖然としている。
なすがまま、握手に応じている。
別れるとすぐに、"本当の事件"が起こる。
「あの人、誰だっけ?」
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