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一人ぼっちの帰省

 
 用事が済んだ。
 帰路の途に就く。
 急ぐ旅でもなく、時間も十分ある。
 この連休の間、野暮用のため、田舎へ行ったり来たりしている。
 母を預けての一人旅は、始めてではないにしろ、数年ぶりである。
 トイレの心配が、まったくない気楽旅でもある。

 連休終りの2日前だから、渋滞する心配もなかろう。
 少し遠回りをすることにした。
 田舎の桜は、すでに散っており、どうしても満開の桜にも出会いたかったからである。
 めったに車の通らない山道のルートを選んだ。
 冬期の閉鎖は、解かれたと聞いている。
 最悪の場合はUターンしても良いほど,時間的にも余裕がある。
 久しぶりのルートというより、今の住まいに母を呼んでからは、初めてである。
 帰省に使う道ではないが、父の好きだった田舎でのドライブ・ルートの一つである。
 最後のその時にも行きたがっていたが、すでにドライブに連れて行ける状態ではなかったのを、思い出したからでもある。

 田舎の道は、気持ちが良い。
 市街地を除けば、快調に走れる。
 集落地近くで、お年寄りの超安全運転をしている軽自動車に出会えば、しばしスローダウンして、昔の"たたずまい"を、のんびり鑑賞もできる。
 山間部に入れば、カーブを曲がるたびに新たな風景とも出会える。
 時たま、何の鳥か分からないが、さえずりも聞こえてくる。
 何といっても、空気がうまい。

 本道から分かれて、野道に入る。
 毎年、田舎へ通じる道路は良くなっている。
 かつての細い道が消え去り、調和しないほど立派な道路に変貌している場所も、多々見受けられる。
 難所であった峠には、いつの間にか、トンネルができている。 
 極めて走りやすいのではあるが、懐かしい眺めも、いっしょに消えてしまった気がする。
 
 野道から山道に入る。
 上りが続く。
 所どころに、"黒い雪"が残っているのが見えはじめた。
 土ぼこりにおおわれていて、よく見ないとわからない。
 ただ、残雪から水分が供給され続けているのか、周りの土よりは、明らかに黒々としている。
 やがて、それらも白い顔をした雪と入れ替わってくる。

 大きなカーブを回る。
 正面に見える山の斜面に、真白い雪が一面に残っている。
 近づくにつれ、雪一色の山が覆いかぶさってくるように感じる。
 雪が、まぶしい。
 その中に、ピンク色に染まった桜の花が現れた。
 里桜のような淡紅白色ではなく、薄い紫がかった紅色の花である。
 周りの木々には、緑の芽生えは見えず、冬木のままである。
 その"晩冬"の中で、健気に咲いている。
 おそらく、その斜面は、陽のあたらない日かげなのだろう。
 所どころに配置されたサクラ色と相まって、白い雪が、白い桜の花のように見える。
 白とピンクの花が、競演しているかのようだ。
 
 道路わきには、所どころに雪は見えるものの、残雪はしょせん残雪である。
 道路上には、その欠けらも見当たらない。
 こちらの木々には、葉が芽生えている。
 あちこちに、そのまま残されている"凍結注意のカンバン"も、戸惑っているように見える。
 でも、違和感がないほど、季節が入り混じっているのも事実だ。
 車のパネルには、外気温が20℃だと表示している。

 "春の中の冬"の側から、"冬の中の春"を見る。
 とても不思議な、四季折々の景観である。
 どちらが主役なのかは、問うまい。

 この素適な風景を見せてあげたいと思っていると、懐かしさと相まって、昔の空間が蘇ったような気がした。
 助手席に座って、ご満悦の父。
 後ろの座席から身を乗り出すように、
「きれいだねー」
と、元気だった当時の母。
 あり得ないことと、心の中に"苦笑い"が沸きあがった。
 
 

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