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叔母への手向けに向かう(3)

 
 叔父の家に着く。
 自宅から800メートル弱の所にあり、歩いても10分チョイだから、車ではアッという間である。
 母方の親戚の中では、一番近い場所にある。

 市街地の中なので、近くに駐車スペースはない。
 道路に面した一角をラーメン店に貸しており、玄関先に狭いスペースがあるだけである。
 片方を塀際に幅寄せしないと、ドアは開けられない。
 入口で降ろし、その場所で待っているように言って、塀にこすらない様、ギリギリに車を後進させる。
 数回の切り返しをして、片側は歩ける隙間を確保し停めた。

 前を見ると、いない。
 狭い道路といえども、結構、車は行き来する。
 あわてて、道路に出る。
 50メートルほど先を、すたすたと早足で遠ざかっていた。
 昔の城下町そのままの道幅だから、歩道などない。
 見事に車を避けるというより、車の方が難を逃れようとしている。
 追いついて、連れ戻す。
「どこに行こうとしたの」
「家だよ」
 自宅に向かおうとしたようだが、方向は逆だった。

 田舎では、チャイムは無用である。
 玄関の戸を開け、挨拶の声をかけながら、上がり込む。
 日曜日であるが、叔父が1人いるだけだった。
 亡くなってから、すでに1週間は過ぎており、都会に出ている2人の息子たちも、帰ってしまったようだ。
 突然の来客、それも長女の弔問、驚きに加えて感謝の言葉が次から次へと続く。
 ちょうど寂しさを感じる頃でもあったのだろう。

 挨拶もほどほどに、線香を手向ける。
 こちらの動作を見ながら、同じく合唱する。
 来訪の目的は、達成した。
 感謝の言葉を続けながら、お茶を入れてくれる。
 告別式への御礼に続き、亡くなるまでの経過の説明が続く。
 何度も何度も、来訪者に伝えられたであろう臨終に至る話しは、悲しさを紛らすように、淡々と繰り返される。

 母が、会話を割って話し始める。
「お姉さんも亡くなってしまった」
 前回の病院への見舞いの際にギョッとした叔父だから、今回は驚いた様子も見せず、黙って聞いている。
 どうして妹が姉になったのか不明であるが、見舞いに行った時から姉に変わって、揺るぎない。
「変な顔をしていたから、ダメだと思っていた」
 見舞いに行ったことを覚えているものの、遠慮なく話す。
「△△子もなくなっているし、生きているのは◇◇子と□□子」
 妹の名前は間違っていないが、弟は生きている。
 すかさず、叔父は口を挟む。
「実家の弟さんは、生きていますよ」
「男の兄弟は、みんな亡くなった」
「姉さんが亡くなって、生きているのは◇◇子と□□子だけ」

 叔父も、寂しそうな顔をして、黙る。

 田舎では、むやみにお茶を勧め、食べきれないお菓子を並べるのが、古来からの礼儀になっている。
 お茶も、十分過ぎるほど飲んだ。
 お菓子も、遠慮なく、食べている。
 そろそろ、おいとまする頃である。
 礼儀だけでなく、まだ居て欲しいという叔父の想いを感じつつも、帰宅することにした。
 お茶を十分飲んで、お菓子も充分過ぎるほど食べていたので、お漏らしが心配になったからである。
 その事など想像もできないであろう叔父は、一所懸命に引き留めをするが、振り切ってお別れをした。
 来月には、納骨に立ち会うことを約束して。
 
 


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