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大好き"だった"海に向かう(2)

 
 最後の有料道路には入らず、10キロほど一般道を走る。
 ドライブを予定していなかったので、食べ物を仕入れたかったし、田園の景色も楽しみたかったからである。
 すぐにコンビニに入り、大好きなアイスクリームを求める。
 真夏のような青空には、アイスは良く似合う。
 外気温を見てみると、すでに27℃を示している。
 この時期の真夏日も、あながち嘘ではなさそうだ。

 田舎では、半月前に田植えが終わったばかりである。
 こちらの田んぼは、すでに青々としている。
 水面が見えないほど、生育している。
 さすがは、早場米の産地である。
 広大な田んぼが続いているのではなく、小さな田んぼで、形も様々なものが、あちこちに点在している。
 周りの建物を除外すると、昔懐かしい田園風景である。

 いつもなら、田んぼの稲には興味を示すのだが、今日はまったく反応していない。
 うれしそうな顔も消えている。
 かといって、不満そうでもない。
 無表情な顔をしている。
 最近は、家にいる時でも、無表情な時が多くなってきた。
 
 長い長い砂浜には、30ほどの海水浴場が連なっている。
 その中の4か所ほどが、"お馴染みさん"である。
 すべてが、海岸近くまで車で入れる砂浜だ。
 いつもの浜の1つの入口が見えた。
 いやに混んでいる。
 海水浴シーズンは避けているので、ほとんどの訪れる時は、閑散としていた。
 今日は、広い駐車場が、車で埋め尽くされている。
 こんなに混雑した時に来たことはない。
 入口の立て看板には、「7月1日から有料」と記載されているので、海水浴のシーズンでもない。
 戸惑うものの、海の見える最前列の空きスペースを見つけ、車を入れる。
 砂浜には、結構な人たちがいる。
 水辺には、あちらこちらに子供が遊んでいる。
 サーフィンを楽しんでいる人も、大勢見える。
 砂の流れ出るのを、せき止めているコンクリートの上では、ローラーボードにうつ伏せに乗った子供たちが、行ったり来たりして楽しんでいる。

 助手席からは、反応がない。
 いつもなら、
「波が荒いね」
「あら、また大波がくる」
「広々して、気持ち良いね」
「あそこに、人がいる」
など会話が始まるのだが、なぜか黙っている。

 いつもの海岸を訪ね回り、最後の海岸に至る。
 ここで、昼食となった。
 コンビニで買い求めた弁当を広げる。
 1年前までは、海の見える食堂やレストラン、1年中やっている海の家に入って地元の料理を味わうのも、ドライブの楽しみの1つだったが、今では無理となった。

 朝食が終わると、こちらは仮眠に入るのが常である。
 その間、助手席からは、波の状況の解説が続くはずである。
 まったく静かである。
 聞こえるのは、海岸で戯れる子供たちの嬌声だけである。
 光を遮るマスクの隙間から見ると、寝ている。
 小一時間ほどで、帰宅に向かう。
 早めの時間帯のせいか、渋滞の雰囲気もなく、あっという間に到着し、久しぶりの"ドライブの日"は終わった。


 翌日、朝食の最中、聞いてみた。
「昨日は、暑かったね」
 返事がない。
「昨日は、どこに行った?」
「老人会」
「海じゃなかった?」
「いや、老人会に行ったよ。楽しかった」
 忘れたというより、まったく記憶になかった。

 大好きだった"海"は、消えていた。
 
 


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