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流れないものでも流したい

 
 いつものように、物音が仕出した。
 時計を見ると、いつもより30分ほど早い。
 昨日は日曜日で、午前中は何とか起こしておくことができた。
 ふとんに5、6回ほど入ったが、呼び戻したからである。

 最近は寝てしまうので、大好きな"ドライブの日"は、絶えて久しい。
 毎日のデイサービスに追われているからか、頭の中も"老人会"でいっぱいのようで、本人からも行こうとは言わなくなった。
 "お漏らし"が常態となってしまったため、こちらも強くは誘わないからでもある。
 だから、目を離すと寝てしまう。

 テレビにも興味はなくなっており、やることもない。
 デイサービスのような、付きっきりの相手などできない。
 午前中だけで、こちらが疲れてしまい、午後は放置した。
 昼食後は、必然的に"長い長い昼寝"となった。

 体力は十分に回復しているのだろうから、ある程度の活発な"夜のハイキング"は想定内である。
 1時間半程度で終わるであろう騒音を、気にしないように、意識的に聞き流す。
 "トイレハイキング"と名付けた動作は、今でも理解できない。
 用を済ますのではない。

 トイレに入る。
 トイレットペーパーを、カラコロと巻き取る。
 投げ入れ、水を流す。
 そして、出ていく。
 その間、10数秒。
 部屋に戻るや否や、再びトイレにやってくる。
 これが、1、2時間も続くのである。

 始まったばかりの頃、何度も何度も、何なのかを当人に聞いてみたが、回答はなかった。
 医師に問うても、納得できる答えは得ていない。
 "認知症だから"が、いま得ている解答である。
 
 ふと、背筋に冷たい感覚が走る。
 いやな予感がした。
 トイレに滞在している時間が、長すぎる。
 数分間も、留まっているのだ。
 いつもの行動パターンとは、明らかに違う。
 耳を澄ませ、音を聞き取る。
 水の音が聞こえるが、単に流れる音ではない。

 いやな気持ちが膨れ上がり、戸を開けて見る。
 トイレのドアは、開いたままになっている。
 そこに、便座の中に手を入れている姿が見える。
 駆け寄る。
 紙おむつを、押し込んでいる母がいた。
 押し込みながら、水を流す。
 周りは、水浸しだった。
 今回は早く気付いたため、トイレの所から外への流水は避けられたものの、マットなどは水浸しになっている。
 何をしているのか問うても、答えない。

 前回は専門業者を呼ばざるを得なかったが、今回は紙おむつだけだつたから、排除できた。
 4枚の紙おむつが、詰められていた。
 "お漏らし"が恥ずかしくて、流そうとしたのだろうと思った。

 取りあえずの処置をして、風呂に入れ、居間に戻った。
 漏らした紙おむつを入れたビニール袋が、そこにあった。
 そういえば、取り出した際、紙おむつは汚れていなかった。
 新しい物を詰めていたのだ。
 いまだに、理由は知り得ていない。
 大切な知覚が、また一つ、流れ消えたのだろう。

 出かける時は、水道を止めざるを得なくなったようである。
 
 


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