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初夏の診療帰省(3)

 
 メンタルケアの病院に着く、
 建物が見えたころから、助手席は静かになった。
 予約券を入れ、待合室に向かう。
 元気がなく、何も話さない。
 椅子に座ると、心なしが、うなだれている。
 夢の世界の住人になっても、病院嫌いは治らないらしい。

 予約の時刻になっても、声がかからない。
 徐々に、待合室が混んでくる。
 廊下沿いに並んでいる診療室の入口を見てみると、今日は4人の医師が診察をしている。
 ほかの3人の医師のところには、患者が出入りしている。
 こちらの担当の部屋には、だれも入っていない。
 15分待った。
 スピーカーからは、呼び出しの名前は流されていない。
 通りがかった看護師に、聞いてみる。
 急患が出たため、もう少し待ってほしいという。
 メンタメケ科で急患?
 素人だが、何となく変である。

 遅れること30分、早足で見覚えのある白衣の人がやって来た。
 急ぎ足である。
 急患を診ていた様子とは、やはり違う。

 名前が呼ばれた。
 診察室に入る。
 こちらの不機嫌さを感じ取ったらしく、いやに愛想が良い。
 今の医師とは、何となく肌が合わない。
 そういう気持は以心伝心、相手にも伝わるものである。
 別に意地の悪い医師だとか、大柄だとか、なのではない。
 ただ、気心が知れていた前任者と、どうしても比較してしまうからである。
 運の悪い医師である。
 短い問診は、終わった。

 一転、"患者"は快活になった。
 一刻も早く立ち去ろうと、席を立つ。
「お世話になりました」
「さようなら」
 瞬く間に、診療所から脱出した。
 追いかけるのが間に合わないほどの、素早さである。
 職員たちであろうが、付添い人や患者であろうが、お構いなしに、出会う人すべてに挨拶をしている。
「お世話になりました」
「さようなら」

 毎度のことである。

 来た時とは別人のように、すたすたと車に向かう。
 外の道路沿いに建っている薬局に見向きもしないで、車に乗り込もうとする。
 止むなく車中に入れ、1人で薬を受け取りに向かった。
 車中には、1人のえびす顔が残った。
 
 


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