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晩夏の朝が過ぎていく

 
 セミが、しきりに鳴いている。
 ベランダのガラス戸2つすべてを、全開する。
 玄関の方に行き、こちらのドアも半開きにする。
 清々しい風が、どっと吹き込んで来る。
 熱帯夜だったが、朝の風は気持ち良いものだ。
 セミの鳴き声も、風に乗って、部屋中に響き渡る。

 昨日までの様子とは、少し違うようだ。
 ミンミンゼミの鳴き声をかき消すように、アブラゼミの鳴き声が圧倒している。
 明らかに、数による勝利だ。
 陽が高くなるにつれ、アブラゼミの方が元気になる。
 コンクリートの味気ない空間に住んでいるせいか、昆虫の鳴き声は、心を和ませるものである。

 田舎では、月遅れのお盆が過ぎると、日中の気温が暑い日でも、夜にはいっきに下がり、しのぎ易くなる。
 盆地の所以である。 
 そして、"びぐらし"が、夕方の音の空間を占める。
「カナカナカナ」
と鳴く音は、暑かった夏の終わりを告げる風物詩でもある。

 同じ夏の終わりを知らせる昆虫がいる。
 "すいっちょ"である。
 体長は2~3センチ、全身緑色をしていて、確かキリギリスの仲間だったと記憶している。

 電灯を消し、眠りに入ろうとする頃、かすかな鳴き声が、暗闇の中、聞こえ始まる。
 ウトウトする頃には、どこからか部屋にやって来て、
「スイーッチョ、スイーッチョ、スイーッチョ」
と、枕元近くで澄んだ鳴き声を奏でる。
 コオロギは家の中まで入ってこないが、すいっちょはお構いなしに入ってくる。
 真っ暗闇の中、吊った蚊帳にしがみつき、鳴く。
 メスを呼んでいるのだろうが、その鳴き声には、過ぎゆく夏をいとおしむ韻律がある。
 いま住む所で、すいっちょの鳴き声は、聞いたことはない。

 やっと、ゴソゴソする音が、寝室から聞こえ始めた。
 しばらくすると、無言で起きてきた。
 おむつを、交換させる。
 下着もパジャマも、着替えさせる。
 朝一番の儀式を終える。

 その後、テレビのコンセントを差し込み、定位置に座り、食事のための前掛けをし、じっと待っている。
 いつもの工程を、何事もなかったように、こなした。
 今日は、セミが鳴いているとは言っていない。
 鳴き声は、聞き飽きたようだ。

 ベランダに、日差しが、さんさんと降り注いでいる。
 今日も、暑くなりそうだ。
 
 


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