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食卓に花が咲く

 
 朝食の時刻となった。
 テーブルの上に並べ終わり、準備はすべて整った。
 食前の挨拶を交わして、食事に入る。
 一緒に語れる貴重な時間でもある。
 食べる様子を、テレビを見る合間に、注意深く監視する。
 今日の出だしは、良さそうだ。
 間もなく口いっぱいとなるだろうから、その時まで、こちらの食事を出来るだけ進めておかねばならない。

 指示すれば、まだ一人で食事はできる。
 箸も、器用に使っている。
 要介護5といっても、先週に仲間入りした"新人"である。
 普通の人と見分けがつかないほど、見事なものだ。

 突然、おかしなことを口走る。
「きれいだねー」
 正面はベランダであるが、座ったままでは、空しか見えない。
 くっきりした雲が、浮かんでいるのでもない。
 すっきりした青空でもない。
 階下を覗いたとしても、花が咲いている季節ではない。
 昨日に見た記憶では、紅葉が本格的に始まった様子はなかった。
 時おり、意味不明の言葉を発するようになっている。
 真夜中にも、ブツブツ言っている。
 その一種だろうと、聞き流す。

「きれいだねー」
 間隔をあけて、同じことを2、3回、繰り返す。
 室内には、花が咲いている鉢植えを飾ってあるが、左方向にあり、視界に入っているとは思えない。
 視線は、食卓の上から離れていない。

「何がきれいなの?」
 1度目は、返事をしなった。
 再度、聞いてみた。
「これ」
 おかずを、指差す。
 今日は、起きがけの着替えに、予想を超える時間を取られた。
 よって、冷蔵庫にあった物が中心の"おかず"となった。
 新たに作ったのは、卵焼きと新キャベツの油炒めだけである。
 朝は"目玉焼き"、といきたいところなのだが、あの半熟のトロットした状態では、供することはできない。
 少し硬めの卵焼きを、一口大に切って出さないと、エプロンの上に、それこそ花が咲く。
 新キャベツの油炒めは、塩だけで味付けした。

 食卓を、じっと見てみる。
 油でコーティングされたキャベツが、うっすらと緑がかって、透明感を保ち、光っている。
 その上に、骨と皮を取られた鮭の切れ身が、電子レンジで加熱されたため焦げ目もなく、これまたピンク色に光っている。
 その奥には、2つに切られたプチトマトと1本のカニカマが、紅色のあでやかさを競っている。
 その右隣には、昨夜スライスし漬けたキュウリが、団体で肩を寄せ合い、ブロッコリーと緑色を誇っている。
 左隣りには、一口大に切られた卵焼きと、これまた塩だけでゆでられたカボチャが皮を下にして、黄金色に輝いている。
 偶然とはいえ、明るい色だけが、彩り良く配置されていた。

 幼児は、思いもつかないことを、時おり口にする。
 経験が重なるごとに感動しなくなった大人たちには、鋭角的で真を突かれた言葉に、ドキッとする。
 見方が素直で、純粋さの所以であろう。
 認知症で徐々に童心に向かっているのだから、素直な心が出現していてもおかしくない。
 なるほど、納得である。
 確かに、味はともあれ、明るい彩りだ。

 外気温が低めとは無関係に、食卓だけは、春の花が咲いたように"綺麗"だった。
 
 


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